夜の山道を車で登って行くと、動物だけでなく普段見慣れて
いるものがより感動的に現れる。
信州だったか秋田だったか、深夜に林道を走行していた時、
神々しいまでに輝く満月に遭遇した。
深夜の山奥は真っ暗闇の世界だが、車のヘッドライトを消して
夜道に出てみると、その時ばかりは月明かりを受けた木々が
白々と浮かび、幻想的な景色が広がっていた。
きっと夜行性の動物にとっては、明るすぎるほどの夜だった
のかも知れない。
女性の姿を借りるのは、定石通りすんなり決まり、あとはどんな形
(ポーズ)にするか、どの辺りの女性の顔にするか心の中で練った。
自分の中に彫刻作品の古典として在る、月光(がっこう)菩薩像に
も大きく影響された。
祈りのポーズにすることも、最初からあった。
正確には祈りの合掌ではなく、もう少し緩やかな願いのポーズにした。
女性であることとポーズとしての形が決まると、インド辺りの女性の顔に
するしかないと自然と思えた。
やや前屈みに両肘を張って、おでこを頂点とした三角の形と裾広がりの
ベールの二等辺三角形で構成し、シンメトリーを強調した。
そんな情景を彫刻に出来ないかと思った。
例えば、雨上がりに見える虹や雲、夕焼けや闇など
実体のない事象を絵には描けても彫刻では表現
出来ない。
なので何か具体的な形を借りて表現するしかない。