待 合 室
ゴリラの彫刻
この作品は八年ほど前につくった作品の、謂わばリメイク版です。
元々の作品は電車の中を舞台にしたもので、窓や荷物棚、つり革などもつけて、人物も二倍ほど居た
賑やかな作品でした。
銀座でグループ展をした時に一度だけ出品し、その後はずっと倉庫で眠っていました。
何せ舞台が大掛かりだったせいで大人が4人以上居ないと動かせず、他への出品もままならない
状態だったからです。
そうこうしているうちに保管場所の関係で壊さなければならない状況になってしまい、たった一度だけの
展示で壊すのは余りにも不憫であり、もう一度陽の目を見せてやりたいとの気持ちからテーマが狂わ
ない範囲で縮小することを考えました。
最終的には子供連れのご婦人と若者二人を省略して人物の配置を変え、主題も壊さずまとめる事が
出来たと思っています。
この作品をはじめるきっかけは、電車通勤する中で何気なく向かいの座席を眺めていた時、人生の
縮図のようなものを見た思いがしたからです。
必然と偶然の中で出会い、同じ時間を共にしながら別の何かを待っているのが人生そのもののように
思えました。
真ん中にゴリラを持って来たのは、電車の中に実際居たからではなく、私の白昼夢です。
人生観だけを表しても面白くありません。私にとってゴリラは人間の隣人でありながら野生の象徴で
あり、ぎりぎり人間になれなかった悲劇の主人公です。
それで中央に座りながらも何となく肩身の狭い、落ち着かない表情にしました。
最後の陽の目と思って埼玉県展に出品し、賞をいただきました。
賞をもらうことにあまり重きを置いていない私ですが、この作品で頂けたのは労が報われたような思い
ではじめて嬉しく感じた受賞でした。